大判例

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高松高等裁判所 昭和30年(う)235号 判決

判決理由〔抄録〕

被告人は昭和二十九年九月十七日愛媛県東宇和郡宇和町で貨物自動車(愛媛一の二三〇三号)に木材約千二百貫を積み、五百竹勝己(当時二十二歳)を助手として、同自動車を運転して同県伊予郡郡中町山崎の岡部武雄経営の岡部製材所に向う途中、同日午後四時三十分過ぎ頃同県喜多郡立川村大字川中字登立の伊予鉄バス登立停留所附近の巾四・五米乃至五・二米の道路を北進通過するに際し、南進して来た伊予鉄バスが同停留所の左側(東側)に停車するのをその手前南方約三十米の所で認めた被告人は、同貨物自動車の時速を約二十粁に落し、同バスの手前約十米の所で警笛を二回鳴らした。停車中のバスの後方より道路を横断しようとして人が不注意に突然対行車の直前に飛び出して来ることが時々あるものであるから、停車中のバスと対行してその横を通過する自動車の運転者はこの点に注意を払い、本件のような巾の狭い五十分の一の登り勾配の道路においては変速ギヤーをローに入れるなどして超低速度を保ちつつ両車が離合し終るまで適度に警笛を鳴し続けるなどして警戒音を発し、前方直前を横切ろうとする人がある時は間髪を入れずに停車できる態勢を整えて進行すべきに拘らず、被告人は変速ギヤーをトップに入れたまま時速約二十粁で右停車中のバスと擦れ違う約十米手前で警笛を鳴らしたのみでその後は警戒音を発せず、かかる狭い道路で同バスの右側(西側)を約二十粁の過速度で通過しようとしたため、同貨物自動車の先端が同バスの後端から約一間通り過ぎた時同バスの後方から同バスの降車客で保育園通いの武田重光(昭和二十五年二月十日生)が道路を横切ろうと急に出て来たので、被告人はこれを認めて直ちに急停車の処置をとったが及ばず、同貨物自動車のバンバーと右側前車輪との間辺りに衝突した同児を撥ね飛ばして仰向けに転倒させて右前車輪で同児を轢き、同児に左下腿複雑骨折挫滅創、同足部粉砕挫滅創、右大腿挫創の治療約三ヶ月間を要する傷害を負わせた、原判決認定の業務上過失傷害の事実を認めることができる。

論旨は本件事故による負傷は被告人に取っては不可抗力のものであるから被告人は無罪であると主張するが、本件の場合被告人において前示の通りの十分な注意を払い、超低速度で警戒音を発し続けながらバスと擦れ違う措置に出ていたならば、被害者は被告人の貨物自動車が近附いて来たことを覚ってこれを退避したかも知れず、またこれに気附かず被告人の自動車と衝突しても、超低速度であるから同児を撥ね飛ばすこともなかったと認められ、また同児が同自動車に轢かれる前に停車させることも出来たと考えられるのであって、本件事故による負傷を被告人に取っては不可抗力であるとは言えないのである。勿論本件被害者側に重大な過失のあることは認めなければならないけれども、このことは被告人が自動車運転者として果すべき前示注意義務を尽さなかったことの責任から被告人を解放することにはならない。

被告人の運転する貨物自動車に積んだ木材が荷台の外に十糎位はみ出していたので、被告人が運転台の右側窓から首を出してバスとの擦れ違いの際のバスと木材との間隔を見るため後方に注意していた被告人の眼に、右側に停車のバスの背後から白い物が被告人の車の右側に飛び出して来たのが映じたので、ハッとし急ブレーキを踏んだ旨の被告人の供述記載があるが、そもそも荷台に積んだ千二百貫の木材の一部が荷台の外にはみ出していて擦れ違うバスに接触する虞れがある場合に、時速十五粁乃至二十粁でも同バスの横を通過すること自体が甚しい不注意であり、若し接触すれば即座に停車し得ない速度であるため被害の発生を免れないのであるのみならず、仮にこのように後方注視の必要がありこの間前方注視がおろそかになるならば、警笛を鳴らすなり車の速度をより一層落すなり一旦停車するなりその他前方注視を一時怠ったために起ることあるべき事故を未然に防止すべき処置を執るべきであり、後方注視の必要上前方注視をおろそかにせざるを得なかったとの理由のみで前方注視を怠ったことに原因する事故の責任を回避することはできないのである。

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